
最年長バトラー・セバスチャンが、アフタヌーンティーの起こりを歴史からひもときます。一杯の紅茶の背後にある、豊かな物語を落ち着いた語り口でお届けします。

お久しぶりでございます。最年長バトラーのセバスチャンでございます。本日は、私たち執事の仕事とも縁の深い「アフタヌーンティー」について、その起こりを歴史からひもといてまいりたいと存じます。
アフタヌーンティーが生まれたのは、十九世紀半ば、ヴィクトリア朝のイギリスでございます。当時の上流階級の食習慣では、夕食がたいそう遅く、夜の八時頃にとられるのが常でございました。昼食から夕食までの長い時間、当然ながら空腹を覚えます。そこである公爵夫人が、午後の時間に紅茶と軽い菓子を楽しむことを思いつかれた――これがアフタヌーンティーの始まりと伝えられております。
最初は個人的な習慣であったものが、やがて親しい友人を招く社交の場へと育ってまいりました。ここで大切なのは、アフタヌーンティーが単なる「間食」ではなく、「人と人とが心を通わせるための儀式」として洗練されていった点でございます。三段のスタンドに、サンドイッチ、スコーン、そして菓子を並べ、下の段からいただくという作法も、この社交の中で少しずつ形づくられてまいりました。
面白いのは、この習慣が日本に渡ってからの変化でございます。日本では、ホテルの上質なもてなしの象徴として受け入れられ、独自の発展を遂げてまいりました。季節の和の素材を取り入れたり、繊細な意匠を凝らしたり。文化とは、海を渡るたびにその土地の色を帯びて、新しい姿になるものでございます。私は、こうした文化の旅路そのものが、たまらなく面白いと感じております。
もう一つ、作法についても触れておきましょう。三段のスタンドは、下の段の塩気のあるサンドイッチから始め、中段のスコーン、そして上段の甘い菓子へと、味の濃さと甘さが段々に増してゆく順にいただくのが基本でございます。これは、味覚を疲れさせず、最後まで美味しく楽しむための、先人の知恵でございます。作法とは窮屈な決まりごとではなく、突き詰めれば「その場を心地よくするための工夫」の積み重ねなのだと、私は思っております。
一杯の紅茶の背後には、これほどまでに豊かな物語がございます。次にアフタヌーンティーを召し上がる折には、その歴史の重なりに、少しばかり思いを馳せていただけましたら幸いでございます。ゆったりとしたティータイムを、どうぞお楽しみくださいませ。

セバスチャン
名誉執事
執事文化の伝道者。国内外を行き来し、日本の執事の素晴らしさを世界に伝える。



