
ハウススチュワード・ケンが、オーナーご不在の間に任された大規模修繕の日々を振り返ります。三十年の経験に裏打ちされた、静かな統率のお話です。

皆さま、こんにちは。バトラーのケンと申します。私はこれまで、数多くの大規模な邸宅の運営を任されてまいりました。今日はその中でも、特に忘れがたい仕事の話を、差し支えのない範囲でお話ししたいと思います。
あるお住まいで、オーナーが長期の海外ご滞在に入られている間に、大規模な修繕が必要になったことがございました。建物というものは、放っておけば必ず傷んでまいります。その傷みを早く見つけ、価値を損なわぬうちに手を打つ。これが、邸宅を預かる者の最も大切な務めのひとつでございます。
ご不在の間の工事管理を、私はすべてお任せいただきました。これは、たいへん重い信頼でございます。オーナーがいらっしゃらないからこそ、すべての判断を私が下し、すべての責任を私が負う。職人の方々との日々の打ち合わせ、予算の管理、工程の見張り、そして何より、この家がご一家にとってどれほど大切なものかを一時も忘れぬこと。私は毎朝、まだ静まりかえった広間を一巡りし、調度の一つひとつに変わりがないかを確かめることから、一日を始めておりました。
修繕というのは、ただ壊れたところを直せばよいというものではございません。ご一家がこの家で過ごしてこられた時間、そしてこれから過ごされる時間の、その両方に責任を持つ仕事でございます。ですから私は、単に元通りにするのではなく、目立たぬところまで手を入れ、この家が次の季節を、次の世代を、気持ちよく迎えられるようにと心を砕きました。予算の中で、期限の中で、できる限りのことを。
やがてオーナーが帰国され、玄関に立たれたとき、ふと足を止めて、こう仰いました。「出発前より、美しくなっているじゃないか」と。私は、ただ深く頭を下げました。あの一言のために、三十年やってまいりました。以来、そのお住まいとのお付き合いは、二十年以上続いております。
邸宅は、もうひとつの人格である――これが私の信条でございます。静かなる統率で、この先も、お預かりするすべてを整えてまいります。今後とも、お客様にとって快適な空間を提供するために努めてまいります。

長くこの仕事を続けてまいりまして、つくづく思うことがございます。邸宅を守るとは、建物を守ることであると同時に、そこに流れる時間を守ることでもある、と。数字と人の双方を見られること――修繕の予算表とにらめっこする目と、朝の広間で調度を撫でる手と、その両方を持ち続けることが、長いお付き合いにつながるのだと思っております。

ケン
ハウススチュワード
静かなる統率力で、邸宅のすべてを滞りなく。30年の経験がもたらす、絶対の信頼。


