
頭取・執事ベルが、長年愛してやまない一杯について綴ります。お客様にお淹れする紅茶とはまた別の、執事自身のための静かな時間についての、私的な便りです。

お嬢様、ご機嫌麗しゅう。執事のベルでございます。以前この日誌の開設のご挨拶で、いずれ好きな紅茶の話を書くと申しておりましたので、今日はその約束を果たそうかと存じます。
わたくしが長年愛してやまないのは、フォートナム&メイソンのロイヤルブレンドでございます。1902年、英国王エドワード七世のために調えられたと伝わる茶葉で、アッサムを主体にした、深みと落ち着きのある味わいがございます。ミルクをたっぷりと落としても決して負けない、その芯の強さが、わたくしはことのほか好きなのでございます。
お客様にお淹れする紅茶は、当然ながらお客様のためのものでございます。その日の気温、お召し上がりになるお食事、お相手の体調――あらゆるものに合わせて加減いたします。けれど朝のまだ誰も起きていない時間に、自分のためだけに一杯淹れるとき、わたくしはようやく「執事のベル」から、ただの一人の人間に戻れるような気がいたします。湯気の向こうで、今日という一日の段取りを静かに組み立てる。あの時間があるからこそ、日中どのような席でも落ち着いていられるのだと思っております。
ちなみに雑学をひとつ。フォートナム&メイソンは、もとをたどれば1707年、王室の使用人であったウィリアム・フォートナムが、使い終わった蝋燭を売りさばいたことから始まった店でございます。使用人から身を起こした商いが、いまや王室御用達――執事の端くれとして、この来歴には少しばかり胸が熱くなるのでございます。
お忙しい毎日かと存じますが、どうかお嬢様も、ご自分のためだけの一杯を持たれてくださいませ。素敵なティータイムを、心よりお祈り申し上げます。

執事ベル(石井 裕一)
ハウススチュワード+頭取
「執事は選ぶ時代へ」——本物のおもてなしを、あなたの人生に。


