
ソムリエ執事マダム・レッドが、あるお祝いの一夜を振り返ります。プライバシーに触れぬ範囲で綴る、一本のワインが人生の記憶に寄り添った夜の記録です。

ご主人様、お嬢様。執事のマダムレッドでございます。今日は、わたくしのソムリエとしての務めの中でも、特に心に残っている一夜のことを、差し支えのない範囲でお話しさせてくださいませ。どなたの、とは決して申せませんが、あるお祝いの席のことでございました。
そのお祝いに、わたくしはひとつの願いを託されました。「お生まれになった年と同じヴィンテージのワインを用意してほしい」と。年代物のワインは、良いものほど数が少なく、そして年々失われてまいります。特定の年、特定の状態のものを探し当てるのは、砂の中から一粒の宝石を見つけ出すような仕事でございます。
わたくしは、これまで培ってきたつながりを頼りに、方々へ声をかけてまいりました。何度も空振りに終わり、正直、諦めかけたこともございます。けれど、あるとき、フランスの古いセラーに、探し求めていた一本が静かに眠っていることが分かったのでございます。長い歳月を、暗く静かな地下で過ごしてきた一本。それがようやく陽の目を見て、お祝いの席へと運ばれてくる――そう思うと、胸が熱くなりました。
ワインを探すという仕事は、ただ珍しい一本を見つければよいというものではございません。そのお方が生きてこられた年月に、そっと寄り添う一本でなければならないのでございます。同じ年のワインでも、造り手や畑によって、たどってきた歳月の物語はまるで違います。わたくしは、そのお方の人生の色合いを思い浮かべながら、どの一本が最もふさわしいかを、幾晩も考え抜いたのでございます。
当日、そのワインをそっと抜栓し、料理との調和を考え抜いてお出ししたとき、そのお方は静かに目を閉じられました。一杯のワインの中に、その方が歩んでこられた歳月が、確かに溶け込んでいる。ソムリエの仕事は、銘柄を当てることでも、知識を披露することでもございません。その方の人生の記憶に、そっと寄り添う一本を探し出すこと。あの夜、わたくしは自分の務めの意味を、あらためて噛みしめたのでございます。
ワインの一滴に、永遠の思い出を。あの夜のことは、わたくしにとっても、生涯忘れられない一夜となりました。それでは、また次回の記事でお会いしましょう。

マダム・レッド
セカンドスチュワード
美食と美酒の世界を知り尽くした、情熱のソムリエ執事。グラスに注がれるのは、洗練された知識と愛情。

